僕とアンが見つけた14の物語
波間に浮かぶゆりかご


誰からも大切に思われなかったり、心配されていないとしたら、僕は本当にこの世界に「いる」と言えるんだろうか。
もしかしたらその女の子は、11歳になるまでどこにも「いなかった」のかもしれない。
でも、ここにやって来るまで他人(ひと)から見向きもされなかった1人の女の子を、この島が初めて温かく包み込んでくれたんだと思う。

だから少女は島中に幸せをふりまき、その物語に魅せられたたくさんの人たちが、まるで彼女に代わって恩返しをするかのように、今もこの島を愛し続けている。
ただ、ちょっと待ってほしいんだ。
「赤毛のアン」という一色でプリンス・エドワード島を塗りつぶしてしまうのは、あまりにももったいない気がする。

島の名前はみんな聞いたことがあるはず。誰もが子供の頃、どこかで読んだことがある、あの「赤毛のアン」の舞台になった島だ。
でも、僕が知っているこの島は、楽しい人がいっぱいいて、美味しいものがたくさんあって、見たこともないような美しい風景に溢れていて。
例えば、先住民の人たちがかつて、この島には30種類とか40種類とか、数え切れないほどの「緑色」がある、と言っていたのを知っているだろうか。

おもちゃのような色使いの灯台が島のあちこちにあって、周囲を平らな芝生の緑が守っている。
僕の背丈よりずっと高いトモロコシはぴんと背筋を伸ばして、そのまっすぐな緑は晴れがましくさえ見える。
きらきらと太陽に輝く緑の葉の中で、赤い色を輝かせているのは小ぶりのリンゴ。たぶん、アンが食べていた、あの砂糖づけになるリンゴだろう。

収穫間近のジャガイモは、本来の緑色を枯れがかった色に変化させながら「その時」を待ち、干し草ロールからは、太陽の光をいっぱいに浴びていた頃の緑が、香りとなって立ち昇っている。
ひとつとして同じものはない「緑色」との間で見事なコントラストを描いているのが、この島特有の真っ赤な大地だ。
緑と赤のコントラストに空の青が加わり、空よりも濃い青をたたえた海は、ふりそそぐ光を受けて静かに揺らめいている。

この島の風景をじっと見つめていたら、まるで心が深呼吸しているかのように、体の中から何かが抜け出して、僕の中に何かがすうっと入ってきた。
美しい色たちに抱かれながら、カナダ東部の海に浮かぶ小さな島、プリンス・エドワード島=PRINCE EDWARD ISLAND(PEI)。
「波間に浮かぶゆりかご」

先住民の人たちが、そんな美しい名前で呼んだPEIのすべてを感じる旅に出てみようと思う。
永遠に生き続ける「赤毛のアン」、アン・シャーリーと手を携えながら。
「プリンス・エドワード島がなかったら、この小説は生まれなかったでしょう」-『赤毛のアン』の作者モンゴメリは言いました。
赤土の道、緑の大地、青い海岸線、そして白い灯台がつくりだす、やさしい風景。モンゴメリが愛さずにはいられなかった島の魅力は、赤毛でそばかすだらけの女の子「アン・シャーリー」によって全世界に広まりました。
プリンス・エドワード島州政府観光局
プリンス・エドワード島州政府観光局(灯台)
プリンス・エドワード島州政府観光局(ビーチ)
プリンス・エドワード島州政府観光局(アンバケーション)
- 波間に浮かぶゆりかご
- 赤い大地の贈り物
- 「緑の屋根」と「緑の髪」
- 月夜の秘密
- キルトとともに
- berry berry berry
- 17人目のアン・シャーリー
- いまや高級食材
- 甘い甘いケーキ
- 建国の父
- 世界一のアイスクリーム
- オーガニックの島
- 運命を待つ郵便局
- 1つだけ聞いてほしいこと
著者プロフィール
平間 俊行 (ひらま としゆき)
報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。