赤毛のアンと世界一美しい島

~ここにしかないプリンス・エドワード島に出会う~
トラベルエッセイ

僕とアンが見つけた14の物語

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オーガニックの島

「ハーモン・アンドリュースさんはグラベンスタインのりんごで二等賞を取るし、ベルさんは豚で一等になったのよ」
「リンドの小母さんは、手製のバターとチーズで一等になったのよ。だからアヴォンリーはかなりよい成績だったわけね」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

アヴォンリーで生み出される食材をアンが誇らしげに語ったように、PEIの人たちはみんな、この島の恵みを誇りに思っている。

だから今、PEIでは化学肥料を使わないオーガニックが大きな注目を集め、オーガニック農家やオーガニック・レストランがどんどん増えているんだ。

自慢のにんじんをポリポリとかじりながら、いろいろと教えてくれたBrian Mackayも、そんなオーガニック農家の1人だ。

話を聞いているそばから、放し飼いの鶏が産んだ卵が集められてきた。

スーパーに並んでいるようなパッケージされた卵じゃあない。殻に汚れだってついている。でもこの卵、きれいに洗ってある卵より、ものすごくきれいに見える。

色がよくてツヤツヤして、なんだか生命力に溢れている。

殻の中から「生きてるぞ~」って声が聞こえて来そうだ。

たぶん卵かけご飯にしたら最高だと思う。醤油は少しでいい。

大ぶりの玉ねぎも見るからにみずみずしくて、変な表現で恐縮だけど、女性のすべすべした肌のようだ。

白いインゲンだって、Brianおススメのにんじんだって、生で食べてもえぐみや苦みはちっともない。

Brianは、こんなオーガニック野菜や新鮮な卵などをぎっしり詰め込んだ「ベジ・ボックス」の販売を手がけている。

週1回、注文したお客が自分で取りに来るシステムで25ドル。なにしろオーガニックだから、草取りひとつにしても人手がかかる。当然、割高にならざるを得ない。

それでも、4年前に週18件で始めたこのビジネスは今、140~150件にまで増えている。200件もの注文を受ける週だってあると聞いた。

たとえ割高であっても、安心・安全な野菜を求める人たちがPEIではどんどん増えているということなんだろう。

「ムール貝の殻をまいて、海の栄養を土に与えているんだ」

化学肥料に頼るようになってしまった島の畑の土をよくするために、Brianが使っているのがムール貝の殻。

Brianによると、殻に含まれるカルシウムによって土の糖分が高くなっていき、それにつれて虫も育ちにくくなるんだそうだ。

カルシウムのほかにもムール貝の殻を通じて、たくさんの海のミネラルを土に与えることができるのだという。

「普通の農家が化学肥料を使って直接、野菜に栄養を与えるのに対して、オーガニック農家はまず土を育て、土から栄養を与える点が大きな違いなんだ」とBrian。

「例えば、オーガニックでつくったカブは、ものすごく味の違いが分かるんだ。やわらかいしジューシーだし、甘いし、それに早く煮えるんだ」

にんじんをポリポリ、ポリポリやりながら、自分が育てた野菜のおいしさを熱く語るBrian。

「好きな野菜は?」と聞くと、「キャロット。トマトも好きだけどね」という答え。

まあ、1番がにんじんであることは薄々感づいてはいたけれど。

PEIのオーガニック・レストランの草分け的存在が、「Shipwright's」。島の中心、シャーロットタウンから車で45分もかかる。

だから、ちょっと立ち寄る、という店じゃない。ここの料理を目当てにわざわざお客がやってくる店だ。

農家だった建物を改装してレストランにした。だから周囲の畑も、もともとは本業の農家が作物を育てていた畑だ。

店のまわりでは鶏やカモ、七面鳥なんかも飼われていた。

大変申し訳ないと思うし、あまり食べたこともないはずなんだけど、この七面鳥、すごく健康そうで、すごく美味しそうだ。いやいや、本当に申し訳ない。

美味しそうだと思ってしまった罪滅ぼしじゃないけれど、ランチの注文はベジタリアン・サンドイッチにした。

パンの間にはさむのは、すりつぶしたジャガイモに豆なんかが入っていて、それをプライパンで焼いたもの。ジャガイモのハンバーグ、とでも言えばいいんだろうか。

それがものすごく大きくてボリュームがあって。どっさりのトマトとキュウリもある。

こんなにたくさんはさんだら当然、口をめいっぱい開けてもパクつくことはできない。

新鮮なケールは口の中ではね返してくるような弾力を持っているし、店で焼いているという人気のパンも、本来のパンらしい適度な固さがあっていいバランスだ。

日本のスーパーで売っている、ふわふわしていて握りつぶすとものすごく小さくなりそうな食パンなんかとは大違いだ。

それにしてもだ。この旅は少々食べすぎだ。ましてやきょうは、オーガニックの取材のはず。オーガニックって、もっとさわやかなイメージであるべきなんじゃないか。

もちろん、オーガニックが菜食主義でもダイエットでもないことは分かっているけれど、何か違う気がするんだよなあ。

「PEI流 お腹いっぱい幸せオーガニック」ってとこかな。

ま、幸せになれるんなら何も問題はない。それに、「お腹いっぱい」で「幸せ」なのは、なんといってもPEIらしいから。

プリンス・エドワード島は、2013年、米国グルメガイド「ZAGAT」で、世界の8大グルメ観光地に選ばれました。観光地としてだけでなく、食の充実ぶりも証明されたのです。オーガニック農家や漁師、マーケットやレストランの協力の下、食と旅を組み合わせた体験企画も豊富。有機栽培農家の見学や、オーガニック・ストロベリー摘みなど体験型ツアーも盛んです。 毎年9月には1カ月間をかけて食の祭典が催されます。シャーロットタウンの目抜き通りがファーマーズ・マーケットに大変身。有名シェフのコース料理を食べたり、ビーチでロブスターBBQを楽しんだり。グルメファンには、美味しい9月がイチオシです。

PEIフレーバーズ
フォール・フレーバーズ・クリナリー・フェスティバル
シップライツ(カフェ)
ファーマーズ・マーケット

僕とアンが見つけた14の物語
  1. 波間に浮かぶゆりかご
  2. 赤い大地の贈り物
  3. 「緑の屋根」と「緑の髪」
  4. 月夜の秘密
  5. キルトとともに
  6. berry berry berry
  7. 17人目のアン・シャーリー
  8. いまや高級食材
  9. 甘い甘いケーキ
  10. 建国の父
  11. 世界一のアイスクリーム
  12. オーガニックの島
  13. 運命を待つ郵便局
  14. 1つだけ聞いてほしいこと

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。