赤毛のアンと世界一美しい島

~ここにしかないプリンス・エドワード島に出会う~
トラベルエッセイ

僕とアンが見つけた14の物語

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運命を待つ郵便局

「二週間もおわるころには、アンもジョシーやルビーなどの気が気でない連中の仲間いりをして郵便局のまわりをうろつきだし、ふるえる手でシャーロットタウン日報をひらき、入学試験の当時に劣らないびくびくした、地の底へ沈み込むような気味を味わうようであった」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

ギルバート・ブライスと張り合うようにクラスのトップをめぐって猛勉強を続けたアンは、教師を目指してクイーン学院を受験することになる。

受験を終えたアンが、その結果を知る唯一の手段が、郵便局に届く「シャーロットタウン日報」だったというわけだ。

アンの将来にとっても、また「ANNE of GREEN GABLES」の作者、モンゴメリにとっても、郵便局という場所は、自らの運命にとって大きな意味を持っていたんだ。

祖父が亡くなり、1人になってしまった祖母の面倒をみるため、モンゴメリは教員の道を断念して祖母の仕事である郵便局を手伝うことになる。

そんな生活の中で執筆した「ANNE of GREEN GABLES」。5つの出版社に原稿を送ったものの、いずれも結果は不採用。だけど、「5連敗」の不名誉を人に知られずに済んだのは、自分の家が郵便局だったからだ。

「シャーロットタウン日報」を待ちわびたアンの気持ちは、原稿の「合否」にハラハラし続けたモンゴメリの気持ちそのもの。

最大の違いは、モンゴメリはアンのように不安げに郵便局のまわりをウロウロする必要がなかった点だ。

なにしろモンゴメリは郵便局の中にいて、何食わぬ顔で「不合格」を知ることができたんだから。

数年後、帽子箱の中に放り込んでおいた原稿を見つけたモンゴメリが、再びボストンの出版社に原稿を送ったことで、ついに「ANNE of GREEN GABLES」は世に出ることになる。

モンゴメリが郵便局で働いていなかったら、そして「5連敗」がみんなの知るところとなっていたら、再チャレンジにも躊躇したはず。

もしかすると、「ANNE of GREEN GABLES」が日の目を見ることはなかったのかもしれない。

シャーロットタウンのコンフェデレーションセンターには、「ANNE of GREEN GABLES」の直筆原稿が大切に保管されている。

特別に見せてもらったけれど、正直な感想を言うと、ものすごくクセのある字で、なんて書いてあるのか判読しづらかった。とにかく個性的な字だ。

それと、この原稿は何の紙に書かれているのか、というのも気になった。郵便局で何かの目的に使っていた紙なのかもしれない。

そもそも今のように紙が豊富にある時代じゃないから、原稿用紙を手に入れるという面でも、郵便局が「ANNE of GREEN GABLES」の誕生に一役買った可能性はある。

PEI州立大学のモンゴメリ研究所では、「ANNE of GREEN GABLES」の初版本3種類を見せてもらった。

写真の黒っぽい表紙の初版本は相当、珍しいと聞いた。3種類の初版本がそろっているのは世界中でここだけらしい。

アンとモンゴメリの大ファンの人なら興味津々かもしれない。「なるほど~」なんて言っているだけの僕が見せてもらってていいんだろうか、とも思う。申し訳ない。

気になったのは、初版本の表紙の女性の絵。とてもじゃないけれど11歳の少女には見えない。

聞いてみると、当時、雑誌に載ったアメリカ人女性の写真か絵を、ボストンの出版社が適当に使っただけなんだそうだ。

もうちょっとミステリアスな秘密でも隠されていると、原稿が書きやすいんだけれど。

ところが、この研究所には想像すらしていなかったものが保管されていた。それが、モンゴメリ家から研究所に寄贈されたという日本の着物なんだ。

モンゴメリはこの着物をたいそう大事にしていた、という息子さんの証言がある。ただし、どうしてモンゴメリが日本の着物を持っていたのか、今となっては誰にも分からない謎なんだそうだ。

村岡花子さんが「ANNE of GREEN GABLES」を「赤毛のアン」として出版した時、既にモンゴメリはこの世を去っている。

だから、翻訳された「赤毛のアン」を読んだ日本のファンの贈り物ではないのは明らかだ。

じゃあ、「赤毛のアン」が出版されるずっと前に、原書の「ANNE of GREEN GABLES」を読んだ日本人が、決して安くはないだろう着物を贈り物に選び、はるかカナダのモンゴメリのもとへ贈ったとでもいうんだろうか。

仮にそんな日本人がいたとしたら、村岡花子さんもさぞや驚くに違いない。

「赤毛のアン」よりも前に、何かの形で日本とモンゴメリ、日本とPEIは既につながりを持っていた―。その証拠が、謎の着物というわけだ。

アンとともにPEIをめぐった僕の旅は、なんだかものすごくロマンチックなミステリーを抱えたまま終わることになりそうだ。

キャベンディッシュ村には、グリーン・ゲイブルズ郵便局があります。夏だけオープンするこの郵便局は、人気の観光スポット。ここから郵便物を出すと、グリーン・ゲイブルズの消印が押されて配達されます。プリンス・エドワード島州立大学は、シャーロットタウン郊外に立つ総合大学です。大学図書館の中にあるモンゴメリ研究所では、世界各国で出版された赤毛のアンの書籍や、モンゴメリの遺品、貴重な資料などを閲覧できます。
赤毛のアンの原稿が保管してあるのは、コンフェデレーションセンターにある美術館です。原稿は常設展示されていませんが、2014年は展示される予定です。

モンゴメリ研究所
コンフェデレーションセンター

僕とアンが見つけた14の物語
  1. 波間に浮かぶゆりかご
  2. 赤い大地の贈り物
  3. 「緑の屋根」と「緑の髪」
  4. 月夜の秘密
  5. キルトとともに
  6. berry berry berry
  7. 17人目のアン・シャーリー
  8. いまや高級食材
  9. 甘い甘いケーキ
  10. 建国の父
  11. 世界一のアイスクリーム
  12. オーガニックの島
  13. 運命を待つ郵便局
  14. 1つだけ聞いてほしいこと

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。