赤毛のアンと世界一美しい島

~ここにしかないプリンス・エドワード島に出会う~
トラベルエッセイ

僕とアンが見つけた14の物語

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「緑の屋根」と「緑の髪」

「赤い毛くらい、いやなものはないと思っていたけれど、いまとなってみれば緑色の髪のほうが十倍もいやなことがわかったわ。ああ、マリラ。どんなにあたしがみじめだか、わかってもらえないと思うわ、マリラ」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

日本で「赤毛のアン」と呼ばれるこの物語の原題は「ANNE of GREEN GABLES」。

終戦から7年後の1952(昭和27)年、日本で初めて翻訳本を出版した村岡花子さんは、物語に「赤毛のアン」という愛らしい名前を与え、「GREEN GABLES」には「緑の切妻」という訳をあてた。

モデルとなった緑の切妻屋根の家は、作者ルーシー・モード・モンゴメリがよく訪れた親戚の家。PEIを旅する多くの人が、この「GREEN GABLES」に足を運んでいる。

さて、アンはこの家を舞台にたくさんの騒動を巻き起こすけれど、赤い髪を緑に染めてしまったのも忘れられない大事件の1つだ。

アンの熱狂的なファンには怒られるかもしれないけれど、アンが髪を緑色にしてしまった時、僕がふと思い出したのは、映画「男はつらいよ」のフーテンの寅さんだったんだ。

まあ、カッカせずに聞いてほしい。

自分の赤毛が嫌で嫌でたまらないアンは、「GREEN GABLES」にやってきた行商人から「毛染薬」を買うんだけど、黒くなるはずの髪はなぜか緑色になってしまう。

でもアンは、こんなふうにその行商人をかばうんだ。

「一生懸命に働いてお金をためて、妻やこどもをドイツから連れてくるんですって。とても妻やこどものことを、思いをこめて言うもんで、あたし、胸を打たれてしまったの」―(同)

この行商人に本当に家族がいたのか定かではないけれど、少なくともこういう商売の人って、その程度の無邪気な嘘は平気でつくものなんだ。

寅さんだってお祭りに集まった人たちを前に、こんなことを言っている。

もう、こうなったらタダ!
ただし、あたしがここまで来た電車賃、それと貧しい弁当代、あと、半口開けて待ってる馬鹿っカカア、これにいくらか持ってかなきゃなんない。
あたしも女房もちなのよ、これがまたひどい女!(笑)

寅さんが独り者で、美人に惚れては失恋を繰り返しているのは誰もが知っている話。それに、タダとは言ったけれど、本当にタダとはまいりません、という無邪気な嘘。まあ、ご愛嬌ってもんだ。

しかしまあ、洋の東西にあって、また時代だってまったく違うにもかかわらず、寅さんも、「GREEN GABLES」にやってきた行商人も、同じような話をするもんだなあとつくづく思う。

アンだって75セントのところを50セントにまけてもらったと感謝すらしているし。その行商人いわく、50セントならタダ同然なんだそうだ。「タダ」と「タダ同然」は別ものなんだよ、まったく、もう。

イタリア人の行商人を家の中に入れてはいけないときつく注意されていたにもかかわらず、「毛染薬」を買わされてしまったアン。

アンの説明によると、その人はイタリア人じゃなくて「ドイツのユダヤ人」だったし、アンだって決して家の中に入れることはぜず、ドアを閉めて玄関の外で商品を見たっていうんだけれど。

う~ん、子供だから仕方がないのかな。

そうだ、誤解のないようにしておかないと。寅さんは、髪が緑色になるような「まがい物」は売ってなかったし、ましてや子供をだましたりはしない。サンダルとか運勢の本とか、結構、他愛もないものを売っていた。

そのあたりは同じような商売でも、われらが寅さんはちょっと違うんだ。

でも、アンが後ろ手にドアを閉め、行商人がカバンから取り出す品物の数々に目を輝かせていたって考えると、ほんの玄関先だって「GREEN GABLES」では見逃せないスポットになってくる。

「GREEN GABLES」がなんだか生き生きとしてくるんだ。

屋内には、アンが欲しくてたまらなかった、袖のふくらんだ、あのパッフドスリーブの服や、アンがなくしたと疑われた紫水晶のブローチとか、たくさんの料理やケーキをつくったキッチンとか、いろんなものが再現されている。

近くには「恋人の小径」もあって、ここを訪れた世界中の「恋人」たちが、小径のわきの木の幹に、愛し合う2人の名前を彫っていたりもする。

まあ、どうぞお幸せに。それから、別に名前を彫っていいってわけじゃないと思うので、怒られたとしても自己責任ということでお願いしたい。

「お化けの森」も、「GREEN GABLES」のすぐ近くだ。ただし、少々びっくりするような光景に出くわすから、事前に心づもりだけはしておいてほしい。

「お化けの森」を目指していると突然、出てくるんだ。

お化け? いや、ゴルフ場が。

ゴルフをしているおじさんたちが、楽しそうにこっちに手を振っている。僕の目の前をカートがビューッと通り過ぎていった。

どうしてわざわざここにつくるかなあ、ゴルフ場。

カナダの人ってこのあたり、おおらかというか、結構ゆるいんだよなあ。

国定史跡に指定されているグリーン・ゲイブルズの敷地を取り巻くように広がっているのが、グリーン・ゲイブルズ・ゴルフコース。実はプリンス・エドワード島はカナダ随一のゴルフリゾートとしても有名とあって、シーズン中は多くのゴルファーでにぎわいます。特にこのコースは島でも有数の絶景コースで、ハウスが見える11番ホールは大人気です。

プリンス・エドワード島州政府観光局(グリーン・ゲイブルズ・ハウス)
プリンス・エドワード島州政府観光局(ゴルフ)
グリーン・ゲイブルズ・ゴルフ・クラブ

僕とアンが見つけた14の物語
  1. 波間に浮かぶゆりかご
  2. 赤い大地の贈り物
  3. 「緑の屋根」と「緑の髪」
  4. 月夜の秘密
  5. キルトとともに
  6. berry berry berry
  7. 17人目のアン・シャーリー
  8. いまや高級食材
  9. 甘い甘いケーキ
  10. 建国の父
  11. 世界一のアイスクリーム
  12. オーガニックの島
  13. 運命を待つ郵便局
  14. 1つだけ聞いてほしいこと

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。