赤毛のアンと世界一美しい島

~ここにしかないプリンス・エドワード島に出会う~
トラベルエッセイ

僕とアンが見つけた14の物語

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berry berry berry

「これはすごくおいしいいちご水ね、アン。私、いちご水ってこんなにおいしいものだとは知らなかったわ」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

アンの一番の親友が、「輝く湖水」の近くに住む同い年のダイアナ・バーリー。村岡花子さんの表現を借りると、「腹心の友」ということになる。

ダイアナを「お茶」に招いたアンは、自分が持っている中で2番目にいい服を着て出迎え、ダイアナもやはり2番目に上等な服で「GREEN GABLES」に現れる。

ここでアンは、マリラがこっそり隠していた葡萄酒を「いちご水」と間違ってダイアナに飲ませてしまう。当然、ダイアナはひどく酔っ払ってしまい大騒動になるという、アンの物語の名場面の1つだ。

原文での「いちご水」は、「Raspberry Cordial」。

本当はストロベリーではなくラズベリーの飲み物だったんだけど、村岡花子さんの時代、日本にラズベリーなんてあるはずもない。

村岡さん苦心の翻訳が「いちご水」を生み出したんだと思う。

PEIは"berry"のつく果実の宝庫だ。ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリー…

"berry"の中でも日本ではあまりお目にかかれないワイルド・ブルーベリーの畑を見に行くと、なんだかもう、見るからに人の良さそうな、少し「すきっ歯」のおじさんが出迎えてくれた。

「畑」と書いたけれど、「ワイルド」と「畑」はもちろん、矛盾している。

森に自生しているワイルド・ブルーベリーを見つけたら、周囲の木や草を取り除き、地下茎で広がっていくように促していくのが、この「畑」のつくり方。

10年ぐらいかけて「畑」を広げていくというんだから、実に大変な作業だ。

普通のブルーベリーの高さは腰のあたりらしいけれど、PEIのワイルド・ブルーベリーはせいぜい、くるぶしまで。

地面に張り付くように草が伸び、よく見るとそこに無数の実がついている、という感じ。だから「畑」では気をつけて歩かないと、美味しいブルーベリーを踏みつけてしまうことになる。

ワイルド・ブルーベリーもジャガイモの収穫と同じように、トラクターに取り付けられた機械によって、地面からすくいあげるようにして摘み取られていく。

葉っぱといっしょに摘み取られたワイルド・ブルーベリーが、ポロポロ、ポロポロと、こぼれ落ちるようにしながら大きなプラスチックのケースにどんどんたまっていく。

収穫はブルーベリー農家同士、助け合って順番に行うんだそうだ。だから、きょうは、あのおじさんの収穫をみんなが手伝ってくれている、ということなんだろう。

しかし、機械だけではどうしても摘み残しが出てしまう。ここからが、「すきっ歯」おじさんの出番だ。

ちりとりのような形をした、底にあたる部分が櫛の歯のようになっている「秘密兵器」で「畑」をすくうようにすると、ブルーベリーの実だけが中に残る。

なかなかすぐれものの道具だ。しかもおじさん、時々つまんではすくい、すくってはつまみ、という感じで、結構、栄養補給しながら作業を続ける。

話を聞くこちらとしても、何となくブルーベリーをつまみながら、おじさんについて「畑」を歩き回る。いつの間にか随分とご馳走になってしまった。

食べ続けていて気づいたんだけど、同じ「畑」のブルーベリーでも、白っぽい実だったり、大きさや甘さが違ったりする。

「ワイルド」なだけに、同じ「畑」であっても、つながった地下茎ごとに違う特徴を持っているんだそうだ。

総じて甘さ抑えめでいくらでも食べられる、というのがワイルド・ブルーベリーの印象だ。

収穫後はきれいに洗い、工場で冷凍して出荷するという。凍ったままヨーグルトに入れればすぐに食べられる。パイづくりなんかにも使われるそうだ。

さて、ずいぶんと歩き回り、取材も終わりというところで、おじさんがお土産にと、箱に入った冷凍前のワイルド・ブルーベリーを出してきてくれた。

何キロぐらいあるんだろうか、とにかく本当に食べきれないぐらいどっさり。

おじさん、本当にありがとう。でもどうやって日本に持って帰るんだ?

僕はどう見たって地元の人間じゃないし、ホテルの冷蔵庫で冷凍したって、その先どうすればいいんだ。

結局、PEI在住の方にそのままプレゼントした。だからおじさん、安心してほしい。

お気持ちだけありがたくいただいておくよ。

近年、PEIではワイナリーが増えてきました。とりわけフルーツワインは美味しいと人気があります。何と言っても素材がいいからでしょう。赤毛のアンでもマリラが作っていたフルーツワインは評判でしたよね。季節のベリーを使ったお菓子もとても美味しいですし、旬のベリーやフルーツを使ったお菓子作りも観光客に人気です。

プリンス・エドワード島州政府観光局(ワイナリー)
マイ・アイランド・ビストロキッチン
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PEIフレーバーズ

僕とアンが見つけた14の物語
  1. 波間に浮かぶゆりかご
  2. 赤い大地の贈り物
  3. 「緑の屋根」と「緑の髪」
  4. 月夜の秘密
  5. キルトとともに
  6. berry berry berry
  7. 17人目のアン・シャーリー
  8. いまや高級食材
  9. 甘い甘いケーキ
  10. 建国の父
  11. 世界一のアイスクリーム
  12. オーガニックの島
  13. 運命を待つ郵便局
  14. 1つだけ聞いてほしいこと

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。