赤毛のアンと世界一美しい島

~ここにしかないプリンス・エドワード島に出会う~
トラベルエッセイ

僕とアンが見つけた14の物語

7

17人目のアン・シャーリー

「アンのおびえきった目に、部屋のうしろのほうにいるギルバート・ブライスが映った。彼は身を乗りだして微笑していた―それがアンには勝ち誇ったあざけりの微笑に見えた」
「勇気と決意が、電撃のようにわきあがった。どんなことがあってもギルバート・ブライスの前で倒れたりするものか」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

アンの「宿敵」というか、存在さえ許せないとばかり、アンが怒りの目を向け続けるのがイケメンのギルバート・ブライス。

きっかけは、ギルバートがアンの髪を「にんじん」とからかったことなんだけど。文字通り逆鱗に触れた、といったところだ。

ある日、「ホワイト・サンド・ホテル」での音楽会で暗唱を披露することになったアンは、緊張のあまり舞台の上で言葉が出なくなってしまう。

結果的にではあるけれど、それをギルバートが救うことになる。なにしろギルバートにだけは弱みを見せたくないと、アンは一瞬にして立ち直り、素晴らしい暗唱で人々を魅了してしまうんだから。

知らないうちにアンを助けていた、というのが物語の伏線ではあるんだけど、まあ、それは置いておくことにして。

僕はシャーロットタウンで、「ホワイト・サンド・ホテル」の時と同じように、舞台の上から聴衆を魅了するアンの姿と、割れんばかりの拍手の光景を目にすることができた。

それが2014年、初演から50年という歴史的な年を迎えたミュージカル『ANNE of GREEN GABLES‐THE MUSICAL™』だ。

2013年、初代から「17人目のアン・シャーリー」に選ばれたのがKatie Kerrさん。「カツラをはずして外に出ると全然、気づいてもらえない」とKatieさんは笑うけど、そりゃそうだ。

Katieさん演じる11歳のアンも愛らしかったけれど、僕がインタビューした22歳のKatieさんは笑顔が素晴らしく印象的な美人さんだった。そう簡単に気づかれるはずがない。

ミュージカルの舞台でKatieさんは、髪の毛をからかうギルバートの頭を叩きのめして石盤を真っ二つにしたり、あこがれの袖がふくらんだ服を着て踊ったり、力いっぱいにアンを演じていた。

そうそう、写真を見てもらえれば分かるけど、アンのヘアスタイルは途中から三つ編みではなくなるんだ。Katieさんもインタビューでこう言っていた。

「劇の中では時間が経過していくので、孤児院から来た小さな女の子が、大人の女性に手がかかる年齢になるまでの成長過程や、雰囲気の違いを演じることに一番気をつけています」。

僕が一番好きなのは、アンが小さな体を精一杯に伸ばし、あのレイチェル・リンド夫人に食ってかかるシーン。

赤い髪はにんじんのようで、顔はそばかすだらけだと馬鹿にしたリンド夫人に負けまいと、小さな少女が胸をそらし、つま先立ちで懸命に抗議するんだ。

ギルバートもそうだけど、髪のことを言っちゃいけないんだよ、まったく。

村岡花子さんの翻訳では、リンド夫人に対するアンの抗議はこんな過激なセリフになる。

「よくもあたしのことをやせっぽちで、みっともないなんて、言ったわね。あんたみたいに下品で、失礼で、心なしの人を見たことがないわ」

もしあんたがそんなふうに言われたらどんな気がするの?でぶでぶふとって、ぶかっこうで、たぶん、想像力なんてひとっかけらもないんだろうって、言われたらどんな気持?」

僕がこのつま先立ちのシーンが一番好きだと言ったら、Katieさんは大笑いしていた。

「子供のころの自分は、あんなふうに親に癇癪を爆発させるような子供ではなかったので、初めての経験です。いい経験になったかと思います(笑)」

高校時代にもアンを演じたことがあり、ここシャーロットタウンの「ANNE of GREEN GABLES‐THE MUSICAL™」では2シーズンにわたってアンの親友、ダイアナ役を務めたKatieさん。だからこそ、こんな言葉も自然と出てくる。

「アンは非常に特別な役です。とにかくアンが中心で、偉大な存在。アンを演じることはすごく素晴らしい、特別なことだと思います」

初演から50年という記念すべき年も、やっぱりKatieさんにアンを演じてもらいたい。

そう思って、こう尋ねてみた。「やる気はありますよね」。

間髪いれず、「もちろん」という答えが満面の笑顔といっしょに返ってきた。もちろん、そうこなくっちゃ。

その後、記念すべき2014年もKatieさんがアンを演じることが正式決定されたと聞いた。誰が決めてくれたか知らないけれど、もちろん、そうこなくっちゃ。

せっかくなので、Katieさんから日本のファンへのメッセージをお伝えしておきたい。

「今のあなたで、あるがままでいてほしい、それが一番、自分のためになるから。アンとしてみなさんに伝えたいです」

なんだかKatieさん、もうアンそのものみたいだ。日本に来たら人気者になるんじゃないかな。

ミュージカル「ANNE of GREEN GABLES‐THE MUSICAL™」が毎年、シャーロットタウンで演じられるようになったきっかけは1964年、会場であるコンフェデレーション・センターのグランドオープンに臨席された英国のエリザベス女王の一言だったそうだ。

「続きが見たいわ」―。

「ANNE of GREEN GABLES‐THE MUSICAL™」の一部だけのミュージカルを披露すると、エリザベス女王がこうおっしゃったんだそうだ。

そして、このミュージカルはなんと2014年3月、「世界で最も長く、同じ劇場で公演が続いているミュージカル」として、ギネスブックに登録された。

「続きが見たいわ」という女王陛下の一言が、アンの物語に命を吹き込み、50年も続く世界でただ1つのミュージカルを生み出すことになるなんて、陛下自身、想像すらしなかっただろう。

そう言えば、アンが暗唱を披露した「ホワイト・サンド・ホテル」のモデルになったのが、この写真の建物。

もとはアメリカの大富豪が建てた別荘だったと聞いた。今は「Dalvay By The Sea」(ダルベイバイザシー)という名前のホテルとして営業している。

ちなみに2011年には、今、話題のウィリアム王子とキャサリン妃も仲良くここを訪れている。

まるでアンとギルバートのように仲良く。いけね、つい2人の行く末をばらしちゃった。

ホテルの玄関には、ウィリアム王子とキャサリン妃のパネルが無造作に置かれていた。

日本なら間違いなく、宮内庁がびっくりして飛んできそうな光景だ。

女王陛下は、孫の王子夫妻が訪れたこのホテルが、アンにとっての緊張の舞台だったなんてこと、たぶんご存じないんだろうなあ。

2014年に初演から50周年を迎えたミュージカル「ANNE of GREEN GABLES - THE MUSICAL™」。大きな節目とあって、これまで以上にアンの表情と歌声に魅了されることでしょう。シャーロットタウンでは、赤毛のアンをテーマにした第2のミュージカル「Anne & Gilbert」も上演。これは、アンが先生となってから、ギルバートと結婚するまでを描いた作品です。アンファンなら必見のミュージカルですよ。「ホワイト・サンド・ホテル」のモデルになった「Dalvay By The Sea」(ダルベイバイザシー)は海のそばに立つ隠れ家的存在のリゾートホテル。滞在を延ばしても訪れたいところです。

ミュージカル「ANNE of GREEN GABLES - THE MUSICAL™」
ミュージカル「Anne & Gilbert」
「Dalvay By The Sea」(ダルベイバイザシー)

僕とアンが見つけた14の物語
  1. 波間に浮かぶゆりかご
  2. 赤い大地の贈り物
  3. 「緑の屋根」と「緑の髪」
  4. 月夜の秘密
  5. キルトとともに
  6. berry berry berry
  7. 17人目のアン・シャーリー
  8. いまや高級食材
  9. 甘い甘いケーキ
  10. 建国の父
  11. 世界一のアイスクリーム
  12. オーガニックの島
  13. 運命を待つ郵便局
  14. 1つだけ聞いてほしいこと

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。